【大崩~傾山~祖母山】縦走の記録

【報告者】 島地瓶
【日 時】 2010年10月26日~29日
【参加者】 島地瓶
【山行名】 大崩~傾山~祖母山縦走
 夏休みが延び延びになっていたが、10月末になり、ついに取得できることになった。この時期のアルプスは降雪の危険もあるので、近場で歩きがいのあるコースとして本ルートを選んだ。問題は行きと帰りのアプローチ。マイカーが使えないので公共交通機関に頼らざるを得ないが、辺鄙すぎてちょうど良い便があるか不安だった。しかし、調べてみて何とかめどがついたので実行に移した。
10月26日 曇り
高森10:57~延岡13:00~大崩山登山口14:08~リンドウが丘16:45
 バスで出発して延岡駅からタクシーで登山口へ。6000円のところを5000円にまけてもらった。登り始めてすぐに降りてくる2人に出会ったが、これっきり人に会わなかった。坊主尾根に取りつこうと渡渉点を探すが、水量が多いようで、靴のままでは渡れそうにない。裸足になって渡った。登山道は急な傾斜で、ゆっくり目で登っても息が切れる。登るほど風が強まり、寒いので雨具のジャケットを着た。落石の影響でルートが変わったということだが、以前通過した記憶のない急なスラブなどが出てきた。固定ロープなかったら登れないだろう。

坊主岩

薄暗くなったころガスが流れるリンドウが丘に到着。

26日テント場から.jpg

風が強いので入念に張り綱をセット。木枯らし1号だそうだ。秋の山で十分な防寒装備を持ってきたはずだが寒い。食事後寝袋にくるまってもなかなか暖かくならなかった。木の枝についた水滴がテントにたれる音が一晩中続いた。


27日 霧
リンドウが丘5:40~大崩山6:30~権七小屋テン場8:16~鹿納の野9:00~夏木山10:57~新百姓山13:33~杉が越14:29
 携帯電話の天気予報によると晴れる予想だったが霧。ヘッドランプをつけても真っ白なまま。6時過ぎに明るくなってきてわかったが、周囲の木の枝にはびっしりと霧氷がついている。大崩山の山頂付近では長いもので5センチくらいになっていた。

大崩山頂.jpg

何の展望もないので休まずに縦走路に入る。去年より笹が茂って歩きにくいような気がする。水滴や氷の粒が冷たい。黙々と歩き去年泊まったテン場を通過。かのう山はガスのためピークをパス。この日の行程すべてに言えることだが、標高差は小さくても傾斜が急なアップダウンが多く体力を消耗するので、登りはつとめてペースを落とした。夏木山の手前でガスが切れ、見立側の斜面の紅葉がまぶしく見えた。しかし、この喜びも一時的なものにすぎず、再び視界は閉ざされてしまった。

夏木山手前の紅葉.jpg

 夏木山で初めて5分くらいの休憩。ここから危険とされる区間に入る。まだ行ったことがないところなので不安がよぎる。下り始めてすぐにもろい岩場の下りが出てきた。かなり緊張する。あとははしごや固定ロープもあり、そこまで危険とは思わなかったが、鹿の背と呼ばれるナイフリッジは大キレットにある長谷川ピークによく似ていた。今後大キレットに行く予定がある人には絶好の予行演習になると思う。

27日ナイフリッジ.jpg

 桧山への登りが意外に急で体力を消耗。新百姓山から杉が越はエアリアで50分となっているが、かなり急いだつもりだったのに約1時間かかった。14時までに杉が越に到達した場合は傾山を越えて九折越まで行こうと考えていたが、時間オーバー。トンネルを大分側に抜け数分歩いたところに砂防ダム工事の土砂を盛ったような場所があり、近くの沢から水も取れたのでここで幕営。車道に出るまで誰にも会わない一日だった。幕営地の標高は1000メートルを切っているので寒くはなかった。
 
28日 霧
杉が越4:30~傾山8:00~九折越8:48~本谷山10:48~尾平越12:04~古祖母山13:22~障子岳14:17~祖母山16:12~祖母山九合目小屋16:24
 この日も天候が悪い。予定通りブナ広場まで行ってもガスの中で泊まらざるを得ず、次の日のモチベーションが大幅に下がる恐れがある。杉が越から傾山に登頂したら未踏区間はなくなるので、そこから九折登山口に降りたいとすら思った。
パーティーでの山行なら天気が悪くても会話などで気がまぎれるが、単独では天気とやる気が直結する。しかし、家庭環境の変化により、今後まともな登山はできなくなる可能性に直面している現在の自分にとって、この山行は最後の縦走になるかもしれない。悪天候といっても遭難につながるような暴風雨ではない。天気のせいにして切り上げたら後々後悔の念に苛まれるだろう。頑張って貫徹し悔いを残さずに帰りたい。そんな思いで1日が始まった。狙うは祖母山9合目小屋だ。
4時23分に出発し、杉が越へ。ヘッドランプで歩く真っ暗な杉林は不気味そのもの。自然林に入るといくらか気分が和らぐ。テープによるマーキングもあるが、踏み跡が木の枝などでふさがっていると行く手がわからなくなりかなり心細い。初めは平坦だが徐々にアップダウンが出てきて、小ピークに差し掛かると下り口がわかりづらいところもあった。GPSで方向を調べるとすぐにわかって助かった。
名物のハシゴがなかなか出てこないと思っていたが、ようやく出現。ハシゴを登るのは息が切れる。やせた岩稜も出てきて1100~1200メートル付近のアップダウンが終わるとようやく傾山への登りになる。霧の水滴で服が濡れはじめた。出だしが特に急傾斜でロープに頼りっきり。一般ルートでこんなに厳しいところは経験がない。いつしかエアリアマップ記載されているコースタイムの3時間を超え、焦燥感に駆られる。高度計の表示をにらみながらアセビや草が生えた斜面を登り続け、不意に縦走路に飛び出したときはほっとした。空荷で山頂を往復。どこまでも雲海が広がり、大崩や祖母の山頂付近だけが海に浮かぶ小島のように見えていた。写真を撮り終えるとまた周囲は一面のガスに飲み込まれた。

傾山から.jpg

再びザックを担ぎ、九折越へ。周囲の木々から水滴が落ちてくる。小屋まで我慢しようと大急ぎで進む。九折越えは視界50メートルほど。小屋の中で雨具を着て10分ほど休息した。
笠松山へは笹がひどく全身ずぶ濡れ。ピークはパス。本谷山までの偽ピークはもどかしい。本谷山山頂近くには木の根元に雪のようなものが残っていた。よく見ると霧氷が落ちて吹きたまったものだった。
正午に尾平越を通過できるかがこの日の行動の成否にかかわってくる。ブナ広場で予備の水を1リットル確保して尾平越についたのが12時4分。ここから古祖母山への登りとなる。この区間の傾斜は自分の脚にちょうどよく、すいすい進む。後半の行程のために体力を温存していたのもよかった。古祖母山の山頂を少し過ぎてスズタケに囲まれ風がない登山道で5分ほど休憩。障子岳を目指す。勝手がわかっているためやはり歩きやすい。障子岳山頂では霧が晴れ、親父山方面の紅葉が見渡せた。

障子岳から.jpg

祖母の山頂や阿蘇方面も見えた。残るはあと一山。
天狗岩は寄らないつもりだったが、間違って踏み跡に入っていったので記念に立ち寄り、縦走路に戻った時に反対に進んでしまい、10分ほどロスした。天狗岩の付け根には三脚に中判カメラをつけた男性が待機していた。
黒金尾根分岐を過ぎ、ついに祖母山への登りに入る。逸る心を抑え、一歩一歩踏み出す。山頂直下の岩場を乗り越えついにその頂にたどり着いた。展望ゼロ。記録のため写真だけ撮りそそくさと小屋を目指した。
小屋は無人。ひどく空腹だったので余っていたラーメンを食べて一息入れ、本格的な夕食に取り掛かった。汗をかいたせいか塩分が体にしみいるように感じた。毛布を敷き詰めぬくぬくと就寝。小屋はありがたい。カメラマン含めこの日は7人と出くわした。
29日 霧
祖母山九合目小屋7:08~大障子岩9:34~前障子10:51~上畑登山口12:40~緒方~立野~高森18:00
 気が付いたら窓の外が明るい。時計は6時19分だった。寝過ごしたわけではないが、思ったより起きるのが遅くなった。パッキングを済ませ、雨具を着て出発。前障子まであまり標高は下がらずアップダウンと急傾斜が続く。下山とは思わずに行動しないと大変な区間だ。大障子岩の後の下りなどは特につらかった。この日も視界ゼロ。休むと体が冷えるので、ほとんど止まらなかった。ザックを下さずに前障子を往復。最後のピークが終わった。標高が低くなり、ガスがなくなってきたので雨具を脱いで上畑へ下る。草臥れた脚の筋肉を急傾斜が苛む。辛抱に辛抱してようやく集落脇の登山届ポストに到達したときはほとんど何の感慨もなかった。手が荒れてガサガサになった。リップクリームしか持っていなかったのでやむを得ず手のひらや指に擦り込んだら少しマシになった。
 バスは14時36分だったので、乾いた服に着替えた後、時間つぶしのため、一集落分県道を歩いて移動。あわよくば車に乗せてくれる人がいないか期待したが、そんな人はいなかった。バスが来て緒方駅着(300円)。約20分後にちょうど九州横断特急があるので立野までそれで移動。普通列車は竹田~宮地間がほとんどない。立野から南阿蘇鉄道で帰った。車窓から見る阿蘇の風景は新鮮だった。
 
 感想・3泊4日の縦走くらい夏の日本アルプスでは難なくやれる山行だ。しかし、大崩~祖母の縦走となると同じ期間なのになぜか身構えてしまうものがある。社会人になって祖母山や大崩山に行くようになり、少しずつそれぞれの山を知るようになってきたが、それでも未踏区間が残ったままだった。夏に休暇があればアルプスに行きたいし、5月の連休は休める期間が短すぎて計画が立てられないというジレンマがあったが、思いがけず秋に休みがとれたので縦走ができた。行ってみて、アルプスよりも5割くらいハードだと感じた。傾斜も強いし、エアリアマップのコースタイムも辛め。天気が悪く、黙々と歩くのに徹した山行だったが、トータルすると大して短縮できなかったと思う。行って良かったとは思うものの、また行きたいかというと、しばらくは御免こうむりたい。そういう厳しさのある山域である。