屋久島 本富岳周辺マルチピッチクライミングレポート

<山行報告>
①鯛之川右岸スラブ(千々石ルート)
【報 告 者】キーボウ
【日   時】2010年5月1日(土)
【参 加 者】ユジン、シロキリ、りりぃ、キーボウ
≪ 日  程 ≫
 千尋の滝展望台(14:00)=取り付き(14:30)~終了点(17:00)~千尋の滝駐車場(18:00)=テントサイト(19:00)
≪ 報 告 ≫
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【千尋の滝展望台から千尋の滝と右岸スラブ】
今日は屋久島二日目だ。初日の、ミルキーウェイの取り付き確認と2ピッチ目までの試登を終え、今日はのんびりとした行動予定にした。安房のキャンプ場をゆっくりと出て尾之間のAコープで買出し。水20Lも確保し、タクシーでテント場に向った。5年前に「フリーウェイ」を登った時にベースにしたところだ。しかしその時よりも、草が茂り荒れていた。本当に限られたクライマーしか来ないようだ。ここでテントを張りゆっくりと千尋の滝展望台に向う。
展望台で、今朝のフェリーで屋久島に上陸されたシロキリさんの到着を待つ。なんと、安房でバイクを借りて向かっているという。良い選択をされたようだ。やがて、シロキリさん到着。4人で取り付き点へ向かう。川に向って30m程度降りると通行止めの柵がある。しかし、すぐ左側は通れるようにしっかり道ができている。急な階段を降りて上流側に少し進むと鯛之川を横切る吊り橋がある。ここにも柵がありしっかり鍵が掛けられている。左手の隙間から川に降りる。大きな岩だらけの川を対岸へ渡る。一箇所微妙なところがあるがみんなすんなり渡れた。200mくらい上流に向うと取水口が見える。
ここまで来ると、展望台から眺めるのとは違い、千尋の滝がすごい迫力で迫ってくる。右岸を観察する。トポや過去の写真と見比べ「梅津ルート」らしい取り付きを確認。だが、水流が20cmくらいあり裸足にならないと渉れない。さらに、流れは早く、足をすくわれたらひとたまりも無い。たとえ取り付いたとしても靴を履く場所も無い。ということで、「梅津ルート」はあきらめて下流側の「千々石ルート」に向う。
戻りはつり橋を渡る。ゲートの横の隙間から川に降りることができた。降りたところからすでに微妙なスラブだ。クライミングシューズに履き替えロープを出して数10m上流に進むと取り付を発見。
垂壁というか少し被り気味のフェースからスタート。ほど良いクラックやテラスがあるので登りやすい。垂壁を登ったところに1ピン目が見える。これを目指してスタート。まずは、ユジン・シロキリ組から。ビレイポイントが不安定で危なく思えたが、壁際に一本ボルトがあったようだ。


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【千々石ルート取り付き】
このルートはほぼ直上のため分かりやすい、ボルトの間隔もそこそこ。ミルキーウェイのスラブと違い、小さな出っ張りのフリクションはしっかり捉えることができる。6ピッチまで5.6から5.8までの程よいグレードのピッチが続き、大きな特徴が無いので区別できない。でも快適だった。2ピッチ目はりりぃもリード。左手遠くに展望台が見える。大勢のギャラリーがこちらを見学していたようだ。
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【ルートはこんな感じ。フォローするりりぃ】
7ピッチ目が最終ピッチで垂壁に阻まれて終了のはずだが上部の樹林帯からの染み出しがひどい。ここで、左手のブッシュに逃げて終了とした。
ブッシュを2~30m登ると垂壁に阻まれる、シロキリさんは潅木を手掛かりにすいすいと越えた。僕は、潅木にスリングを掛けて足場を作ってやっとのことで越えたのだが・・・右側を回り込めばなんと言うこともなかったのに。
そこから、左上して10分も立たないうちに本富岳の登山道に出る。ここから10分程度下ると登山口に到着。
結構充実して楽しいルートでした。
【ルート図】
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【鹿児島黒稜会のHPより引用】
①本富岳(ミルキーウェイ)-1
【報 告 者】ユジン
【日   時】2010年5月2日(日)
【参 加 者】ユジン、シロキリ、りりぃ、キーボウ
【天   気】晴
○概要
 最初、ミルキーウェイは長すぎて魅力的に感じられず、内心、一日での完登も無理だろうと思っていたけど、終わってみれば、心に残る山行となった。この企画に見通しを付け、実現していただいたキーボウさん、素早く決断、当パーティを仕切ってくれて最後までパワフルだったりりぃさん、見たことのない野性味でルートを突破し、町では原付バイクを気さくに乗り回していたシロキリさん、どうもありがとうございます。初見(オンサイト?)でルートに取りつくことがこれほど興奮に満ちていて、例え次に完登できたとしても同じ種類の感動では無いだろうと思えるので、今回の山行は良い思い出になった。
 ミルキーウェイ以外では、夜ごとの小宴会、海岸の露天の温泉、松戸の岳人さんとの話、鯛之川右岸登攀での千尋滝の眺め…
○ミルキーウェイ登攀の記録
 はじめに、記憶が抜けている箇所が多く、参考にならない区間もあると思う。また、どこのピッチを取り上げても、クライマーの“奮闘的”な登攀があったのだけれども、ほとんどの時間帯、自分のことで精一杯だったので、やはり記憶に殆どないので、報告内容にその姿が出てきません。ご了承ください。
 【反省点】
 当初の目的が日没までに22ピッチを登ることだったため、何が何でもスピード重視であったはずが、それに徹しきれなかった。ビレイ点のセットにも時間を費やした。また、午後以降になると気持ちが弱気になってしまって、結果的に2パーティーが寄り添うようになり効率が悪かったと思う(判断力は上がった)。
 個人的には、行動食の摂取方法がまずかった。こまめに取らなかったので、午後、そして日暮れてから完全な空腹状態で、集中力とヤル気が極端に減衰してしまった。
【大まかなルートの状態】
  ※プロテクション
  ピンは腐食もなく金属色に輝いている、ネジもしっかり締りグラグラするところもなく程度が良い。ただし、草付きを手掛かりにできて比較的傾斜の緩い部分になるとピンが無いことが多く、ランアウトを要求される。また、幹が小ぶりな小木でランナーをとる場面もある。カムやナッツを使用できる場面もなかったように思う。
  ※岩質 
花崗岩のスラブが大部分。鯛之川右岸スラブに比べると全体的に結晶が小さくかつ磨かれていて、スタンス・ホールドともに信頼に耐え得るものではない。ただし、16ピッチと17ピッチではフリクションが充分に効かせられたので、水の流れ等にさらされやすいか否かで印象が変わると思われる。
  ※濡れ、気象条件
  今回、当ルートに取りつく前3日間は、晴れていたと思わるので雨水等の染み出しは少ないほうだと思われるが、それでも染み出しでフリクションが極端に悪くなりいや~な区間が数か所あった。日陰で雨水のたまりやすい個所は苔の上を歩くことになる。またルートの中間部には濡れた岩のり(とても滑りやすい)を横断するとろがあり危険なので注意を要する。岩の大部分は南に面し遮るものもないので雨水の通り道以外は、すぐに乾くと思われる。
【コースタイム】
4:15 起床
5:19 テント場(造成地)発
6:11 取り付き点
6:25 ミルキィーウェイ登攀開始
11:00 銅淵川大滝スラブ(6P)終了
15:00頃 14ピッチ目チムニー登攀開始
17:11 右方白ルンゼ~東壁(17P)終了
18:28 北東壁右手の沢から縦走路(モッチョム峰~979峰間)
18:48 979m峰
21:24 千尋滝展望所
21:56 テント場
【アプローチ】
アドベンチャー施設「キャノッピー」の入場門から公道を東へ約100mの地点に旧登山道の入口がある(電柱にピンク色テープ)。ここから山に入りすぐに左にトラバースしてやがて直上していく。基本的に銅淵川沿いのなだらかな尾根を登っていく。途中、川の音が遠くなっていく。また東方面からも沢の音が聞こえるが、赤色のテープを目印に尾根の上を進んでok。40分程登ったら左上して、再び銅淵川の流れを目指す。小さな涸れ沢を超えてすぐの小さな尾根の稜上を進む。やがて、銅淵川の一つ目の滝が現れる。その50mぐらい上部に、空が開けて明るく照らされているスラブが見える。ここが1ピッチ目の取り付き点となる。迷わずに辿り着けば約1時間の行程。
【登攀ルート】
・1ピッチ 45m 5.9 B4
  傾斜の緩いスラブの中に、手掛かりを探しながら登る。結晶を拾いながら登りたいところだが磨かれて滑りやすく、安易にスタンスに使えない。身長程の高さのハング(段差)の左端を目指し左上するとピン2つの安定したビレイ地点に立てる。
・2ピッチ 45m 5.10b B10
  前述ハング(段差)の左側を直上し、その後、気持ち右上を目指す。前日、試登でここまで来ていたが、今日は僅かながら雨水が上から染み出し始めていた。よって、スタンスは特に慎重に選び、ヌンチャクも摑んで先を急いだ。やがて垂壁に直面するので、その中央部にあるピンにランナーをとったあと、すぐ右側で階段状になった部分から垂壁の上を目指す。ここはスポット的な藪漕ぎ。垂壁を抜ける部分がこのピッチの核心で、クライミング的な動きと腕力が要求される。ここを抜けると安定したバンドになる(ピン2つ)。
  ここに至るまでに時間を多く費やし、先のことが心配になった。ここのビレイ点の足元に雨水がたまっていて、不覚にもロープを落とし重くなってしまった。
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            【2ピッチ目を登るユジン】
・3ピッチ~6ピッチ(大滝ルート最終まで)
  記憶にあまり残っていない部分。ピンを見つけるのが困難で、また、濡れた苔を横断する箇所もあり、前進するのに躊躇し時間を費やす。トポによると6ピッチ目の最終部分、上部に抜けるが正解であり、キーボウさんはそのとおりに直上したが、私はランアウトを減らしたかったので右上に迫る樹林帯に逃げてピッチを切った。この樹林帯は大きな木も多く藪も少ないので、右方白ルンゼまでのアプローチとしては、どの部分からも比較的容易な場所。両パーティーともここで昼食をとった。
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        【5ピッチ目からモッチョムのモアイ(?)】
・樹林帯
 上に行きすぎないようにして、まず西に向かって歩くとチョロチョロ程度の小川が流れており、それを超えてすぐに枯れ沢を辿って上部を目指す。ここは案外な藪こぎになる。
・7ピッチ~12ピッチ(この区間は実際3ピッチぐらいで突破したと思う、記憶が薄くこのあたりで私の集中力は限界となり、実際、キーボウさんに先行してもらった。この区間はランアウトが多くてキーボウさんならでは!強心臓での突破だった。)
トポどおりに滝の中央部を登るがピンを発見できずにそのまま高度を上げていった。比較的緩いスラブで、真ん中の濡れた岩のり部分を避けながらの登り。途中、細い小木でランナーを2か所とった。傾斜が増す部分から左上を凹角沿いに目指していくが、岩のりを横断かつ草付きを手掛かりとした登攀は気持ちが良いものではない。注意を要する箇所である。凹角の真ん中にピン1つありここでピッチを切る。
・13ピッチ 40m 5.8 B2?
約10mの垂壁を左側から取りつき、5m程登ってから、大胆に右に3mトラバース、それから再び直上する。途中にピンは無いので、小木の幹にランナーを取る。この後の垂壁の“抜け”が非常に悪かった。ここではピンは2つ連続していたように思う??が上体を棚に上げてみて初めて次のピンが確認できるような肝に堪えるピッチだった。濡れている個所もありながらハイスッテップで左足を棚にあげたり、草付きと小木をがむしゃらに掴んで次に進むような登りだった。その後、物凄い灌木帯を詰めてチムニー下にでる。
 この灌木帯の中の一つの木にビレイをとる。
・14ピッチ 40m 5.9
 チムニーを前にして、ここまで先行してきたキーボウさんから、私だったら登れるかどうか尋ねられる。キーボウさんもこの数ピッチに気力・体力とも使い果たしている様子で、トップでの登攀に自信が持てない様子。時間も午後3時を回っている。私もこれ以上の緊張状態は避けたかった(予想される複数回の懸垂下降とそれに伴うスリング残置も後味が悪くまた絶対の安心でもなかったが、登るよりは断然良かった)ので、ダメだと回答した。
 ここにきてシロキリさんがトップでの登攀を突然、希望。敗退ムードを払しょくするような力強さ。
 登攀開始。背中と足でツッパって高度を稼ぐ。途中2か所に小木でランナーを取る。ところどころ背中側にガバホールドがある。灌木の緑が恐怖心をだいぶ和らげてくれるが、実際この15mはほぼ垂直。チムニーを抜けたら、すぐに灌木でビレイしてピッチを切る。
・15ピッチ 40m
 左側に東壁の下端を手で触りながらスズ竹との間を斜めに上がって行く。するとジャンプ台と呼ばれる岩に出る。展望台である。空に開放していく方角がなだらかに下がっていてグライダーとかのジャンプ台に使えそうなための、名前の由来だと思われる。ここで小休止。もう少し進んで東壁右端のスラブ直下に出る。ロープはほとんど不要だった。
・16ピッチ 30m 5.9 B8
 最初から傾斜が立っているが、結晶がホールド・スタンス両方ともによく効く。ピンが連打してあるので、安心なこととルートが分かりやすい。小テラスにピン2つでビレイ。
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       【16ピッチ目をリードのユジンとビレイのシロキリ】
・17ピッチ 40m 5.9 B8
 16ピッチと同じようなピッチ。最初のピンをめがけて右にトラーバスする。途中、右側に見える灌木帯に逃げ込んでも良さそうだが、まっすぐ直上。垂壁に突き当たるので少々濡れた岩を右にへつっていく。ここを抜けると北東壁の取り付き部分に出る。
ここから先は、猛烈!な藪こぎ、長すぎる下山路、キャンプ場に着いたのが夜10時くらいだった。それでもその後、小宴会は開かれ飲酒。
 この猛烈藪こぎ以降は、シロキリさんの報告書をご覧ください。
①本富岳(ミルキーウェイ)-2
【報 告 者】シロキリ
ユジンさんリードで17ピッチを終了し東壁と北東壁の間に走るブッシュ帯に出た。この時点で17時を過ぎてしまい日没が18:40と頭に入っていたのでビバーグに陥りそうな予感がしてきた。ここからは北東壁の登攀を続けるか、懸垂下降するか、エスケープしてブッシュ帯を縦走路に抜けるか3っのルート選択に迫られる。前の2つはぶら下がった状態で一夜を過ごすことになりそうなので、3っ目のブッシュ帯へエスケープを選択する。日没までの短期決戦なので先行して行動開始(後続パーティを待つのに30分はロスをする)。上部は植生の激しい潅木帯なので思い切って北東壁の下をトラバースして右側のルンゼを詰めることにする。水あとをたどり登っていくとかぶり気味の滝とチムニー状の滝がありこれを越えて上り詰めていく。さらに登ると滝の上部が1mハングになっている。溜息をつきながら突進するとなんとシダの群生が覆い被り暗くてハングに見えたらしい。すごく得した気分になりシダハングを正面突破、水あとが消えた斜面をあがっていくと稜線を辿る縦走路に着いた。すでに18時半を過ぎ日没に加え雲に覆われ霧雨で足元が悪い中を4人でヘッドランプを照らし下降していく。2時間のコースを丁寧に3時間かけて展望所に下り着き、さらに展望所から舗装道をたらたら下ってやっとテント場へ到着。22時。ヤブコギで全身すり傷だらけになりながらも無事山行終了?とりあえず美味しいビールを飲みながら、薄曇りのもったいぶったような星空のしたユジンさんの“まあ結果オーラーイですかねぇ”というボヤキとあっけらかんとしたりりぃさんのおしゃべりを聞きながら焼酎をあおり屋久島の長い一日は終わりました。その夜のキーボウさんはリーダーの重責から解放されたせいかビールを一口飲んでパタンと寝入ってしまいました。お世話になりました。
みなさん楽しい山行をありがとうございました。
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        【ユジン手書きのルート図-6-7ピッチ】
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              【南国だねー】