【報告者】りりぃ
【日 時】2010年4月30日~5月3日
【参加者】キーボウ、ユジン、白霧、りりぃ
【行 程】5/1鯛之川右岸スラブ、5/2モッチョム岳ミルキウェイ
【天 気】晴
【山行名】屋久島マルチピッチクライミング
屋久島は林芙美子が『浮雲』の中でひと月に35日雨が降る。と表現したようにとにかく雨が多い島のはずだ。
クライミングに雨はご法度。ましてや、今回のメインは22ピッチもある「ミルキーウェイ」。
会長の呼びかけに早々に名乗りを上げたのはいいが、参加メンバーを知り安堵と共に青ざめ、ミルキーウェイの資料を見ては尻込みをしてしまった。私にとっては無謀な挑戦にしか思えなかったからだ。
メンバーも会長、12クライマーのユジンさん、雲の上の存在のような白霧さんと、こんなに贅沢なメンバーの一員に加えてもらえて他に何が文句があるの?とお叱りを受けそうだが、とても心強い半面私の存在がクライミングのクオリティを落とすことは目に見えている。
みんなはミルキーウェイに主眼を置いていたようだが、私は鯛之川スラブに心惹かれていた。
あんな雄大な千尋滝のすぐそばの見るからに気持ちのよさそうなスラブをクライミングができるなら、さぞかし爽快であろうし、しかも私でも行けそうなグレード♪
屋久島の風と水と空気と大地のぬくもりを五感にめいっぱい感じ、大自然と一体となるクライミングの醍醐味を味わえるのかと思うと、胸は高鳴るばかり。思いは募る。悶々とするが、行かずに後悔するよりは行ってからの後悔が私の性分!と決めた。
会長、ユジンさん、白霧さん、本当にお世話になりました。いろいろ素晴らしい体験をさせていただきましてありがとうございました。おかげさまで後悔など微塵もありません。
鯛之川スラブは、展望台から眺めて気分はすでにアゲアゲ↑状態。
屋久島のいつもより濃い酸素が体の隅々まで行きわたっている感じだ。
合流予定の白霧さんを待つ間、屋久島ではここでしか飲めないという搾りたての「サトウキビジュース」でエネルギーと糖分補充。
甘い香りの中にほんの少し青臭さがあり、それがいかにもフレッシュで天然の甘みが美味しいジュースだ。
「千々岩ルート」はフリクションもバッチリだし、「梅津ルート」よりグレードが簡単なので気楽に登れた。
この快適なスラブは、ただただ今ここに居られることが楽しくて嬉しくてしょうがなかったのだろう。自然と笑顔がこぼれてくる。最高の気分。
1ピッチ目は滝の音でかき消されて声が届かない、リードの姿も見えなかったため笛をとても効果的なツールとして使用したのが印象強い。
モッチョム岳「ミルキーウェイ」 730m、22ピッチの超ロングルート。
4時起床、5時には取り付き目指して出発。前々日の下見時に登山道のルートの分かりにくい所に赤テープを巻きながら行ったので迷うことなくスムーズに到着できた。
ここで驚いたのが、日中下見をした時はあまり目立たなかったスズランテープがヘッドランプを付けた夜明け前の薄明かりの中ではキラキラとよく光を反射してすぐに目に飛び込んできたこと。
それに引き換え、赤のテープは暗闇に溶け込んでしまって一向に目立たなかった。
そういえば、スズランテープはまだヘッドランプを必要として歩くであろう距離くらいまでしかついていなかったと思う。それぞれの特性を良く把握して付けていることに感銘を受ける。
前半部は、ユジン・白霧組が先発。
試登時はスムーズに行けた1ピッチ目からツルツル滑る。
核心の2ピッチ目は一体全体どんな様相になっているのか心配だったが、流石はユジンさん見事なリードっぷりをみせる。
山には雨でも降ったのか濡れてところどころ筋状に水が流れており前々日よりはるかに悪い状態のスラブになっていた。ズボンで靴底を拭き拭きのクライミングなど見たこともない。精神的なタフさが要求されるようだ。また、ロープが濡れて重くなりだし肉体的な負荷も増し始めた。
13ピッチ目だったと思うが見た目は白くて美しい滝があった。でもそれは天使の顔を持つ悪魔の滝。水がチョロチョロと流れ長い苔が生えてヌルヌルしている。そんな滝の中腹をトラバース。リードの会長が「これはスラブじゃない。フェイスだ!」と叫んだのもわかる。とにかく一番気味が悪く恐ろしかった個所だ。白霧さんの提案で用心して後続組のためにフォローの私がロープを付けて行ったのは良かった。ナイスアイディア!
ほっとする間もなく「もの凄い灌木帯をつめ、チムニーの下へ出る」と開拓をなさった米澤先生の記録にはあるが、「もの凄い」って屋久島レベルのもの凄いなんだな。と文字通り痛感(指、手、顔の露出部分に擦過傷等多数)。この数時間後に試練として待ち受けている超ウルトラド級藪こぎに比べればこんなの序の口だということをこの時はまだ知らない…。
14ピッチ目。チムニーの奮闘的な登りを要求されて会長とユジンさんは断念。ごく普通の反応であろう。あれを見たらただ笑うしかない。ここで無念の敗退か?と思いきやここで我らが「藪こぎ隊長」白霧さんの出番。隊長は屋久猿のようにスルスルと登って行ってしまったらしい。頼もしい限りだ。
結局日没を間近に控えて17ピッチで登攀を終了。
しかし、ここからが本当の意味での核心であった。
途中、とおせんぼをするかのように立ちはだかる垂壁の凹。足場もなく岩肌には苔が生えてズルズルと滑る。全身全霊を駆使して本気モード全開でもなかなか上がれない。ザイルパートナーの会長は疲れ切っている。甘えは許されない。どうにか枝を掴んだ右腕の筋肉が熱く痛いと悲鳴を上げ続けている。普段使ったこともないような筋肉を駆使しているのがわかる。ヨガのポーズのような格好をしてどうにか這い上がった。
これを経験した後は、もの凄い灌木帯も奮闘的なチムニーもとてもスマートなものに思えるから不思議だ。
それにしても道なき道を行くルートファインディングの的確さ、行動の素早さ等々本当に白霧さんは凄い人だ。人数も多かったということもあるだろうが、一抹の不安さえ感じさせなかったことも凄い。白霧さんの中に「岳人」を見た。
今回の山行で学んだ知恵
① 「レンタカーを借りよう。」という提案をメンバー全員にしなかったためタクシーを頻繁に使用する大名山行になってしまった。テンバをベースとして行動する場合、クライミングギアなど装備が重いという観点からもレンタカーの積極的な使用がよいだろう。とりあえず予約はしておくべきだ。ちなみに軽自動車なら3日間で12,000円~13,000円くらい。
② 初日は安房の「番屋峰キャンプ場」@¥800。
海に面した小さいけど気持ち良いキャンプ場。オートキャンプもOK。水洗トイレ付。
これはこれで満足であったが、前後の行動を考えるとやはり当初の予定どおり千尋滝の展望台をベースにすればよかったと思う(ある情報により流れたが、実際行ってみて可能だったように思われる。もちろん張りっぱなしはNGだけど)。
トイレ・水あり。
③ 2,3日目はモッチョム岳直下の造成地(水場なし)に泊まったが、ここで大活躍したのが阿蘇の「白水の水」の入っていた20のビニール容器だ。中の水を出してペッチャンコとし丸めて収納しておけば場所もとらないが、いざ使用するときは大容量の水を確保できる。今回は峯夢のバックに入れて使用したがなかなかいい塩梅であった。お勧めの一品。会装備品として寄贈。
④ 会計係を立てる。
先に交通費、共同購入品や食事代を大まかに集めておいて支払いを一本化し残金を清算した方が負担が少なくてよかっただろう。
担当は交通、装備、食事の3つだったが食事→会計で良かった。
⑤ ミルキーウェイの長いルート図は一枚の紙には納まらないためユジンさんは手帳に手書きで書きつけ、私はポケットアルバムの中に。どちらもすぐに見られるように細引きを付けて首から下げたので大変重宝した。ユジンさんはペンもきちんとバックアップしてあったが私はしておかなかったからすぐ失くしてしまった。やっぱり詰めが甘いんだなぁ…(・へ・;)
⑥ 「ミルキーウェイ」総行動時間17時間。高アミノ酸を一日に数回飲んでいた私は自分でもびっくりするくらい頑張れたし、翌日以降の回復力の差が飲まない山行より確実に違っていた。
また、白霧さんがちょこちょこ行動食として飴や干し梅、グミをくださったのもエネルギーになっていたと思う。(行動食はクライミング時はザックを下ろしてまでは食べないのでポケットに入れとくのがベストなんだろうなと思った)
低血糖が怖いので食事には気をつけて昼もパンではなくカロリーメイト数本と高栄養ゼリー食品を摂り水ではなくスポーツドリンク、行動食として高カロリーのナッツ入りチョコレートバーを食べたりしていたのでいわゆるシャリバテがなかった。また、伏線として行きのフェリーで一緒になったまつど岳人倶楽部のゴルゴさんが常に行動食はカロリーを計算して持っていく。と大量のミルキーの入った袋を見せてくれたのも大きい。
⑦ 尾之間温泉@¥200
湯船の底は石を敷き詰めただけ?のような素朴な風情の温泉。温度は熱めだがほのかに硫黄の香りもして泉質はとてもいい感じ。シャンプーも泡立つ。連休中ということもあり大混雑。
教訓としてタクシーは入浴前に予約しておくべし。さもないとテンバまで45分間歩く羽目に。
もうミルキーウェイには行きたいとは思わないけど、やっぱりマルチは最高に楽しい♪
そうそう、湯泊の海浜温泉 良かったです♪