剱岳源治郎尾根主稜ルート

【報告者】 しろきり、toku
【日 時】 20110503-07
【参加者】 しろきり(L)、toku
【山行名】残雪期バリエーション
【行 程】
●3日 【天 気】 曇りのち雨・雪
熊本6:00発 博多 新大阪 富山12:59着
富山13:50発 立山 美女平 室堂16:10着
雷鳥沢キャンプ場
●4日 【天 気】 曇り、風強し(10m強)
雷鳥沢キャンプ場7:10 別山乗越(休憩)8:54-9:27 剣沢キャンプ場9:43着
テント設営後 源次郎尾根取付き確認
●5日 【天 気】 快晴、風弱し
剣沢テント場出発5:40、取り付き点6:24、支尾根7:36、第1ピーク8:11、Ⅰ峰
9:06、Ⅱ峰10:00、Ⅱ峰コル10:27-10:58(休憩)、剱岳11:52-12:20(休憩)、前
剱13:10、一服剱13:43、剣山荘14:29-15:54(ビール飲みました)、剱沢キャンプ
場16:34
●6日 【天 気】 快晴
剱沢キャンプ場9:43 別山乗越11:04 別山11:32-11:54 別山乗越12:12 雷鳥
坂経由 雷鳥沢キャンプ場12:56
●7日 【天 気】 曇りのち晴れ
雷鳥沢キャンプ場6:16 室堂7:17-8:00 立山 富山10:10-14:19発 新大阪
熊本21:00着
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● 報告者(しろきり) ●
■4日に剣沢テント場に入りアプローチの確認に向かおうと準備していると巡回して
きた山岳パトロール隊員から平蔵谷で大きなブロック雪崩が発生しているので入らな
いようにと指示を受ける。源治郎尾根で福岡パーティの遭難と三の窓で県警救助隊の
遭難が発生したばかりで今年は雪量が多く不安定とのこと。
テント場で5人パーティ、下見途中で4人パーティが源次郎尾根より引き返して来た、
4人パーティは長野県から来ていて二十回くらい登っているが今年は例年より3・4m
雪が多くⅢ峰(懸垂下降地点)まで登ったが引き返したとのこと。
天候もどんよりとした曇り空で冬山の雰囲気である。取り付き付近まで下ってみると
平蔵谷からのブロック雪崩でできたデプリが八つ峰基部に達するほどの規模で押し出
している。ちょうど昼過ぎの気温が緩んできた時間帯だったので平蔵谷には近づかず
アプローチの確認だけで引き返す。
■ 5日テント場を出てクラストした剣沢の雪面をアイゼンで下り始める、平蔵谷末
端の幅50mほどのデプリを乗り越えて6時過ぎに取り付き点に着いた。天候は期待
通り快晴になった。登攀準備をして左右の尾根に挟まれたルンゼの中央をノーザイル
で詰めていき左の雪稜に回り込んだところでザイルを出す。部分的にミックスになっ
た稜線を2ピッチ登り、3ピッチ目からはコンテニアスでザイルを伸ばしⅠ峰にたど
り着く。正面に剣岳、右に八つ峰、長次郎谷が見渡せる。Ⅰ峰からは雪稜のナイフ
エッジを越えて急な雪壁ではビレーを取りⅡ峰にたどり着く。Ⅱ峰を越えて再び雪稜
のナイフエッジの先が切れ落ち懸垂下降の残置ロープがあった。目算で25mも無いの
でロープ一本で下降する。Ⅱ峰のコルで30分ほど休憩し頂上に向かう、驚いたことに
頂上直下でスキーヤー3名が平蔵谷に向かって滑降していた。急な斜面を大声を上げ
ながらターンしている。私も以前、乗鞍岳の頂上から山スキーで滑り降りたことがあ
るが、アイスバーンの急斜面をターンすたびに命懸けの決断が必要だった、大声の意
味が良くわかる。
スキーヤーを左手に見ながら頂上に向かう雪稜をひたすら高度を稼いでいくと祠のあ
る剣岳頂上にでた。青空の下、大パノラマが広がり後立山連峰、穂高連峰も見渡せ、
これこそ春山を満喫した気分だ。
剣岳頂上で携帯が使えたので留守本部のH井氏に登攀終了の報告をする。
■頂上から平蔵谷を下りたかったが、雪が不安定で時間帯が悪すぎた。別山尾根を下
ることにする。早月尾根との分岐を左に取り、カニの横ばいで鎖場、ハシゴを過ぎる
と雪面の不安定なトラバースが10mほど続く、長野パーティの別動隊がザイルを使っ
てダブルアックスでクリアしたと言っていた場所で気が抜けない。あとは腐った雪に
注意しながら剣山荘を目指して下る。
剣山荘でガイド他3名のパーティの情報では小窓尾根はまだ取り付いたパーティは居
ないとのこと。池ノ谷から三の窓の雪面で雪崩が起き県警救助隊員が遭難死したばか
りで今年は雪が不安定とのこと。明日三の窓、明後日小窓尾根の行程を断念すること
にした。
■今回の山行では当初3人の予定がH井氏の脱落で急遽2名なってしまった。
出発2日前のことで驚いたが、やむを得ない理由だったし、今回は春山でもありルー
トも難しくなかったのでパートナーのtokuさんとは直ぐに予定通り決行を確認しあっ
た。不安材料は私の右肩がまだ完全でなく90%くらいしか腕が上に伸びないことと、
tokuさんの雪山の経験が少ないことと、それと急な変更で装備軽量化ができなかっ
た。たしかに会のみなさんに心配していただいた通り計画内容は万全ではなかった。
しかしtokuさんの体力と精神的な安定感はパートナーとして十分だった。担当しても
らった食料計画はいまいちだったが、天候に恵まれ、パートナーに恵まれ、おかげで
楽しい山行をさせてもらい感謝したい。最後に剣沢でなくなったM氏は九州脊梁トレ
ランで我々よりもはるかに早いタイムで完走していた。そのときはクライミングはほ
とんどダメでH井氏に教わっていますと謙遜していた。しかし、実際は冬の大山、ア
イスクライミング経験と実力は十分なうえに体力がありながら意外にも春山のテント
場近くで無念の結果となってしまった。
H井氏からの話を聞いて察するには、雪崩からは腰まで埋もれて脱出できたが、その
後の春の嵐みたいな急な暴風雨にさらされてしまったことが最大の原因と思う。剣沢
はまだ雪と氷の世界だから雨に濡れてしまい活動を止めてしまったらこれだけの体力
の持ち主もひとたまりも無い。トラブル続きで行動食の取り方も十分でなかったかも
しれない。山仲間の冥福を祈ると共に大事な教訓にしたい。
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● 報告者(toku) ●
GWに剱岳に登ってきました。昨年の12月から、なぜか雪山に行きたいと思うように
なり、1月の会山行の大山を楽しみにしていたが、あいにくの天気により中止となっ
た。せっかく購入した靴・アイゼン・ピッケルが使えなくなった。
反動で例年になく多雪の阿蘇・九重に何度となく登りに行った。せっかくだからGWは
春山に行きたい、連れて行ってもらいたいと、しろきりさんに言っていた。
GWに春山に行くと連絡があり、場所はどこかと思うと、剱岳源次郎尾根とか、どうい
うところかもわからず、ネットや本でいろいろと調べると、いきなりのバリエーショ
ンルートであった。しかし、しろきりさんに加え、H井さんも行くということでベテ
ラン2人に連れて行ってもらう機会はなかなか無いということもあり、参加すること
にした。
 ところが出発直前の2日の朝、剱岳で遭難事故があったとしろきりさんから連絡が
入った。しかも、知人の遭難死が告げられた。H井さんは参加できないとのこと、ベ
テラン一人に初心者一人、しかも、身近な人の死も、うーんと悩んだが、この機会を
逃したら、いつ行けるか分からないと思い決心した。
●3日 開通したばかりの九州新幹線、熊本駅始発のさくらに乗って出発、しろきり
さんの奥さんに熊本駅まで送っていただく。博多駅、新大阪駅と乗換、12:59に富山
駅に着く。富山から、富山地鉄、ケーブルカー、高原バスと乗換、室堂には16:10に
ついた。高原バスに乗っていたときは雨が降っていたが、室堂では雪に変わった。ガ
スがかかって100m先も見えない。徒歩1時間で雷鳥沢キャンプ場に着く。途中で雷
鳥を見ることができた。蛙のような鳴き声も聞けた。テントを設営し富山で購入して
きたすき焼きの材料で夕飯の支度をする。明日は剱沢までの移動とアプローチの確認
のみ、時間はたっぷりある。同じく富山で仕入れてきていたビールで乾杯、熊本から
焼酎も持ってきていたので、ゆっくりと夜更けを楽しんだ。
●4日 曇り、風強し10m以上ありそうだ。周りの山の山頂が全く見えない。
強風の中、別山乗越にむけて雷鳥坂を登る。かなりのこう配に、20kg以上のザック
を担いでゆっくりと一歩一歩登っていく。標高約2500m、酸素が薄い、息がもの
すごく上がってしまう。2時間弱で剱御前小舎に着く、小屋の中はストーブがあり、
強風を避けゆっくりと行動食を取ることができた。しばしゆっくりしていると、外に
出たくなくなってくる。1時間半も休憩してしまった。
ここからは下り、剱沢キャンプ場までは30分もかからなかった。テント場には雪の
ブロックで風除けを作ったテントがいくつも建っていた。折よく、雪ブロックで風除
けを作ってある空きスペースがあったので使わせてもらうことにした。前日は初めて
の雪ブロック作りをしたが結構疲れたので助かった。風雪の中、テントを設営してい
ると富山県警の方が来て雪の状況を話してくれた。平蔵谷は雪崩が起きたばかりで不
安定なので使うなということだった。テント設営も終わり下見に向かう。雪は固くア
イゼンも有効に利いている。剱沢のかなりの斜面を下っていくと平蔵谷の下の方に大
量のデブリが見える。下の方から4人パーティが登ってきた。話を聞くと昨日の朝3
時から出てビバーク後に戻ってきたそうだ。源次郎尾根取付きのルンゼを確認して戻
る。雪渓を登るのがきつい。雪が腐ってきて足が埋まる。午前中に行動しなければ相
当体力を消耗しそうだ。テントに戻り、ひと眠りする。夕方になって外に出てみると
晴れ間が出ていた。明日の天気に期待が出てくる。時間はたっぷりあるので、ご飯を
炊くことに、しかし大失敗!焦げご飯というか炭ご飯ができた(涙)。レトルトカ
レーをかけてどうにか食べ終わる。
●5日快晴、風も弱し、登攀日和
(天候よし、気分も盛り上がり、モチベーションかなりアップ)

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 天気最高の絶景の剱岳


いよいよ今日は源次郎尾根を登る。早朝は雪も締まっていて快適に歩行できる。 こ
れだけ固ければ雪崩の心配も少ない。昨日に続き、かなりの傾斜の剱沢を下ってい
く。

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デブリ
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登攀入り口のルンゼ
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ルンゼ
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ルンゼ下方

30分ほどで平蔵谷のデブリを通過、デブリを超えたあたりでハーネスを着ける。い
よいよ登攀開始である。ルンゼの積雪もたっぷりでステップもある。かなりの傾斜だ
がピッケルとバイルを突き刺しながら登っていく。かなり息が上がる。かなり登って
下を見ると高度感もたっぷりである。1時間チョイで尾根に上がった。少し登って
ロープを出す。リッジの先に岩が露出している。

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尾根上部Ⅰ峰を望む(偽か)

岩を避けて左にトラバースし斜面を登る。雪面を登りきったところに岩場が出てき
た。ピッケルとバイルを使ってよじ登っていく。剱沢からずいぶんと登ってきた。

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剱沢の眺め8:29
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岩場

しばらく写真を取る余裕が無く雪面をよじ登っていく、ようやくⅠ峰の頂上に着い
た。ここからコルへ降りて行くがかなりの急傾斜だ。

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Ⅰ峰からコル方面9:07

コルからのⅡ峰への登りもかなりのこう配でピックを突き刺しながら登っていく。一
登りしたところで、Ⅱ峰かと思ったらまだ先があった。ナイフリッジ状の雪壁を渡り

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ナイフリッジ9:53

ようやくⅡ峰に辿り着く。平蔵谷側を見ると全山に約40cmの弱層雪崩の跡が見て取
れる。右を見れば八ツ峰が恐竜の背中のようだ。少し進めば、懸垂下降地点だ。

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懸垂下降地点10:18

本には25mとも30mとも書いてあったが、しろきりさんの判断でロープ1本で届きそ
うとのこと、投げてみると実際に50mロープ1本で足りた。
 懸垂下降をしビバーク後?の穴が掘ってあったのでここでしばし休憩である。後は
雪の壁を登って行くだけである。八つ峯を眺めながら、今年の夏はここに来るんだ
なぁと思いながら行動食を口にする。

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八つ峯10:42

ひと休憩した後、剱岳の頂上を目指す。山頂に人がと思ったら、スキーヤーとボー
ダーだ、歓声を上げながら平蔵谷を滑り降りていった。なんかすごい。ひと喘ぎすれ
ば山頂である。11:50に着いた。約5時間半の登攀であった。

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山頂にて11:53
IMGP4089.jpg
剱沢キャンプ場方面

絶好の天気で360度の大パノラマである。北東方面には後立山連峰が連なり、鹿島
槍ヶ岳が特徴的である。南の方には立山三山が間近に見え、遠くには笠ヶ岳も見え
る。北の方の富山市内方面は雲があり見えないが、雲海が広がり、それもまたいい。
30分ほど景色を堪能し、帰りは一般ルートを下る。カニのよこばいでは先客がロー
プを出していた。先に行かせてもらう。前剱、一服剱の登りはちょっときつかった。
一服剱からは剣山荘が見える。あそこまで行けばビールが飲めると足取りも軽く進
む。剣山荘前では4人グループがテーブルを囲んでグラスワインを飲んでいた。優雅
だなーと思いつつ中に入る。剣山荘はきれいな建物で靴を脱いで上がった。とりあえ
ずビール1本、テントに帰ってから1本と2本ずつビールを購入したが、結局、ここ
で2本とも飲んでしまった。初めての春山、しかもバリエーションルートを無事に登
り切り、達成感いっぱいで話も弾んだ。1時間半ほどゆっくりしテントへ戻る。ビー
ルのせいか疲れのためか食欲が無い。ラーメンも食べ飽きたので、α米を雑炊にして
食べた。充実した1日だった。
●6日 本日も晴天
当初の予定では剱岳に登り返し、三の窓泊、小窓尾根を降りる計画だったが、体力的
に無理そうということで泣きを入れた。(リーダーしろきりさんには別の判断があっ
たようだが助かった。(汗))雷鳥沢まで戻り、室堂へ下山することになった。時間
もたっぷりあるので別山に立寄り雷鳥沢に戻る。雷鳥沢にはヒュッテがあり、温泉と
ビールが待っている(笑)。
時間はたっぷりあるので、のんびりと起きだし10時近くに剱沢キャンプ場を出発す
る。ほかのテントはすべて撤収した後だった。1時間ちょっとで別山乗越に着く。荷
物をデポし食料と水だけ持って別山へ登る。しろきりさんのハイペースで行きは25
分、帰りは15分ほどだった。別山からは剱岳が正面に見え立山方面もより近くに見
える。本日も360度の大パノラマだ。別山乗越に戻り、荷物を担いで雷鳥沢に下
る。雷鳥坂はかなりのこう配だが下りなので気分が楽だ。しろきりさんは薄着になり
戦闘モードに入ったかのように猛スピードで下って行った。半分くらい降りたところ
で尻セードの跡が、ここはまねしなければとやってみるとかなり楽しい。坂を上って
いる人に羨ましそうに見られながら快調にしろきりさんとの差を詰める。別山乗越か
ら30分で降りてきた。キャンプ場への少しの登りは雪が腐って登りにくい。テント
を設営して、早々と雷鳥沢ヒュッテにお風呂に入りに行く。山登りの後のお風呂は
やっぱり最高だ。お風呂からあがって、これも最高のビールにありつく。ここでは生
があったので、贅沢にも生ビールを頂く、やっぱり山登りの後のビールは最高!
(笑)。富山市から来た夫婦や東京から来た青年と話をし、2度風呂に入り、ワイン
を飲み、ビールを飲みおでんを食べて3時間も過ごしていた。後はテントに帰って寝
るだけだ。
●7日 下山だ。富山市内でも打上
 5時に起きて、始発の高原バスに間に合うように室堂に着く、高原バスからは富山
市内方面も見える。ケーブルカー、富山地鉄と乗り継ぎ、10時過ぎに富山市内に着
いた。着替えを済ませ、食事ができる場所を聞いて、打上げだ。富山名物しろえびと
ほたるいかを食べ、刺身定食とビールと地酒にを頂く。富山場など市内観光をして1
4時過ぎに富山を後にした。サンダーバードから新幹線みずほに乗換1回で熊本に2
1時に着いた。長いような短いような遠征であった。初めての春山体験、苦しいこと
もあったが、いいことばかりだった。ほんとに無事に帰れてよかった。
山は天候がよければ素晴らしい景色を見せてくれるが天候が崩れれば、どんなエキス
パートでも対処できないことも出てくる。 「観天望気」が大事だ。
もっといろいろと思うところもあったが、山行の報告のみにしておく。
山は怖いけど、山は楽しい!
最後に剱で亡くなられたMさんのご冥福をお祈りします。